つらかったお仕事

ウィングの翼

905.jpg去年のことです。無線LANの設定で伺ったお宅で、相談を受けました。
子供さんが障害(両手両足麻痺)をお持ちで、そのお子さんがリハビリを兼ねて描いた物語(大学ノート8冊)をパソコンで本にしてあげたいという話でした。
お母さんは自分でやろうと思ってパソコンも買ったのですが、どうやらいつになったら出来上がるかわからないということで、どこかそんな仕事を引き受けてくれるところはないかという相談でした。


見せていただくと、とてもかわいいイラストがたくさん入った楽しそうな内容です。右手で絵を左手で文字を書くのだそうです。
そんなことを引き受けそうなのは、私しかいないかなあと思って、急がないからとおっしゃるのでお引き受けしました。
お嬢さんはその時とても喜んでくれました。
2ページほど挿絵付のページをWORDで作ってお送りした頃、その連絡は来ました。
お嬢さんが突然亡くなってしまったのです。ちょうどサンプルを送って、それを見てお嬢さんはとても喜んだのだそうです。「本当に本になるんだね」と、とても、とても喜んだそうです。
そして、翌朝突然、急性心不全で亡くなってしまったのです。
急がないはずだった仕事は、意味が大きく変わりました。一生に一作のみ作品を残して、16歳で逝ってしまった彼女の為に、きちんとした本にすることになりました。

そういうつもりではなかったので、単にWORDで入力しただけのものですが、仲間から印刷屋さんを紹介してもらい、印刷用のデータに移し変えることになりました。これがまた大変です。プリンターで出力するのとは全く違います。大学ノートの両面に力を入れて一生懸命描いているので、挿絵などは裏映りがひどくて、それを少しづつ目立たないよう修正していきました。

作業は大変でしたが、何とか本は完成し、多くの人に配られました。思い出すとまだ涙が出てきてしまいます。でも、彼女の短い人生に少しでも関われたことは良かったと思っています。最後に会ったときの彼女の笑顔が、私にあの仕事を引き受けさせた。不思議な出会いでした。